国家ブランド1位達成と「信頼の品質」~世界最強!日本品質の根底は何か?~シリーズ1
今回のシリーズでは、国家ブランド指数NBIで日本が1位になれたワケを紐解きながら、日本のモノづくりを支える品質に視点をあてた商品企画のお話をしたいと思います。
目次
国家ブランド指数とは
国家ブランド指数とは、2009年度ノーベル経済学賞受賞者で、グッドカントリー運動とグッドカントリーインデックスの創始者、国家イメージ分野における世界的権威であるサイモン・アンホルト氏が開発し、世界有数のグローバル・マーケティング・リサーチ会社・イプソス社(本社・パリ、世界90カ国でリサーチ・サービスを提供)が毎年調査・発表しているのが、アンホルト-イプソス・国家ブランド指数(NBI)です。
日本が国家ブランド1位となった2023年の結果がイプソス社ホームページに公開されています。
下図をクリックいただくとリンクします。
どのような調査方法で調査しているのか、以下に、イプソス社ホームページより調査概要を引用し記載させていただきます。
2023年のパネル国(調査実施国)は、地域別に以下の通りです
20カ国の18歳以上の成人を対象に、毎年オンラインで6万人以上の調査を実施しています。データは、年齢や性別を含む主要な人口統計学的特徴を反映するように加重されています。
- 北米:カナダ、米国
- 西ヨーロッパ:フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、英国
- 中央/東ヨーロッパ:ポーランド、ロシア、トルコ
- アジア太平洋:オーストラリア、中国、インド、日本、韓国
- ラテンアメリカおよびカリブ海諸国:アルゼンチン、ブラジル、メキシコ
- 中東/アフリカ:サウジアラビア、南アフリカ
・測定対象国:世界60カ国
調査項目は以下の6項目です
NBIスコアは、6つの指標のスコアの平均です。各指標には3つから5つの評価質問があります。評価は1から7までの尺度に基づき、7が最高または最良、1が最低または最悪、4がプラスでもマイナスでもない中間の位置です。
- 輸出
- ガバナンス
- 文化
- 人材
- 観光
- 移住と投資
NBI評価項目1~6それぞれの詳細は下記の通りです。
NBI評価項目1.輸出
この指標では、製品がどこで作られているかを知ることで、その製品が購入される可能性が高くなるか低くなるか(「原産国効果」とも呼ばれる)、その国が科学技術において特別な強みを持っているかどうか、国や世界の追求において革新的であるとみなされているかどうかが検証されます。
NBI評価項目2.ガバナンス
この指標には、国際平和と安全保障、環境保護、世界の貧困削減といった分野における国際的な活動だけでなく、政府の能力や誠実さ、市民の扱いや権利の尊重といった認識も含まれます。
NBI評価項目3.文化
この指標には、国際平和と安全保障、環境保護、世界の貧困削減といった分野における国際的な活動だけでなく、政府の能力や誠実さ、市民の扱いや権利の尊重といった認識も含まれます。
NBI評価項目4.人材
国の親しみやすさの一般的な評価は、調査対象者がその国を訪れたときに歓迎されると感じるかどうかで測られます。さらに、調査対象者がその国出身の親しい友達を持ちたいと思うかどうかという個人的なレベルでの人材の魅力と、 その国の優秀な人材を採用したいと思うかどうかというビジネスレベルでの人材の魅力も測定しています。
NBI評価項目5.観光
調査対象者は、その国の観光の魅力を3つの主要分野で評価しています:自然の美しさ、歴史的建造物、都市生活とアトラクションの活気です。 お金の問題がなければ、その国を訪れる可能性はどの程度かという、観光の可能性も評価されています。
NBI評価項目6.移住と投資
最後に、その国の人材や資本を惹きつける力は、その国に留学したり、働いたり、住んだりすることを考えるかどうかだけでなく、その国の経済的繁栄や機会の平等、ひいては生活の質が高い国であると認識されているかどうかによっても測られます。
2023年度と2022年度ランキングの上位国は以下の通りです
(2023年と2022年の国家ブランド指数と順位)(先のHPより引用作成)
日本は2019年に5位、2020年に4位、2021年に3位、2022年に2位、そして2023年には1位と、着実に順位を上げました。日本の6つの指数はすべてにおいてトップ10入りを果たしました。特に「輸出」の指標において引き続き強さを見せており、科学技術への貢献、クリエイティブな場所であること、製品の魅力という3つの属性すべてにおいて1位を獲得しています。また、日本は「人材」と「観光」の指標でも高い評価を得ており、「雇用可能性」と「活気ある都市」で高いランクを獲得しています。
サイモン・アンホルト氏のコメント(先のHPより引用)
「日本が今、地球上で最も称賛される国になっているという事実は、ドイツと米国を除けば、このポジションに到達した最初の国であり、世界のソフトパワーバランスが目の前で変化していることを裏付けています。新しい秩序の時代、2023年アンホルト-イプソス 国家ブランド指数は、アジア世紀が幕を開けた最初の紛れもないサインです。」
イプソス株式会社(日本法人)代表取締役社長 内田俊一氏のコメント(先のHPより引用)
「日本製品に対する海外からの信頼や評価は依然として高いことが分かります。そこに食や伝統文化など『他では体験できないものが体験できる』という観光地としての魅力が加わり、世界でもっとも評価されるに至ったのだと考えます。
現在インバウンド需要も順調に回復、2023年7月の訪日外国人数が新型コロナの感染拡大前である2019年同月比の8割まで回復しました。円安も手伝って、今後もますます海外の日本への関心は高まると予測します。」
日本が国家ブランド1位になれたワケ
さて、これらの根底に横たわっているのは日本への「信頼」ではないかと思われます。
モノやサービスであればそれは「品質が良い」という表現になり、人であれば「誠実」「安心」といった言葉で置き換えられると思います。

日本の「信頼」と「品質」
日本の「信頼」と「品質」について考えてみたいと思います。
日本に来た外国人の多くが、深夜の大都会で若い女性が一人で歩いていたり、小さな子供が親の同伴なしに通学している(電車すら乗る)、カフェなどでバッグやスマホをテーブルに置いたままトイレに行く、電車で荷物の心配もせずにすやすやと眠っている、このようなことに驚愕しています。
また、日本で不幸にも財布やスマホを紛失または置き忘れても、ほぼ確実に戻って来ます(現金もそのまま入っている!)。
極めて心のこもった気持ちの良いサービスを受けても、チップはいらない。
これぞまさに日本人の「信頼」そのものの現れです。
互いに相手を信頼し思いやる心から、「安心」が生まれます。
日本に来るとほっとする、気分が良くなる、元気になる。。。。そういう外国人が何と多いことでしょうか。

このような世界一の誠実さ、思いやりの精神、素晴らしいですよね。
しかも自然は豊かで歴史は大切にされ、食べ物は抜群においしい。
だから旅行者はまた来たくなります。もっと知りたい、もっと見たい、もっと色々食べたい・・・・韓国、中国などと違いリピート率が格段に高いのは本当に誇らしいことです。
このような日本人がモノに対峙する時も、常に真摯に、誠実に取り組みます。決して手を抜かず、細部にわたって常に工夫し、改善を怠らない。
それが日本の品質が世界一になった根本の理由です。
日本が産業界をあげて”品質”を高めた活動「QC(QC=Quality Control)」とは
さて、日本が産業界をあげて品質を高めた活動、「QC(QC=Quality Control)」について少しお話をしましょう。
QCが広まったきっかけは、アメリカのベル研究所の技師であったウォルター・シューハートが1931年に出版した The Economic Control of Manufactured Productです。
QCは今や日本のお家芸のように言われていますが、アメリカが発祥だったのです。
そもそも、シューハートが 1918年にウェスタン・エレクトリック(アメリカ最大の電話会社AT&T社の製造部門の子会社)の検査技術部門に配属されたことから始まりました。当時の品質は完成製品を検査して問題のあるものを除くことで保たれていました。これは非常に手間とコストのかかるやり方で、見落としも多かったのです。
もっと効率良く、部品の段階から不良を発見するやり方を探求しました。
彼は変動(ばらつき)の原因を「特殊原因」と「共通原因(偶然原因)」から構成されるものとし、それらを区別するためのツールとして「管理図」(現在も多用されている、グラフィックに工程の変化を読み取る図)を導入しました。
管理図の一例(https://takuminotie.com/blog/quality/管理図/より引用)
上側の限界線(UCL)と下側の限界線(LCL)の間に計測値の平均が入ればOKとします。
この手法が経済的に製造工程を管理するのに効果的であると提案し、世界で最初の有力なQCツールとなりました。
日本では戦後GHQが通信の不具合の多発に業を煮やし、上記のウエスタン・エレクトリック社からQCの技術者を呼び、電気通信機器メーカーを対象にして、QCの指導を進めました。
その後、当時の「安かろう悪かろう」の風潮を改めようと、産業界、学界も動き出し、「日本科学技術連盟(QCの研究・普及団体)」「日本規格協会(製品の規格を定め、標準化を進める団体)」などの機関・団体が設立され、本格的に活動を開始しました。
アメリカから第一流の統計学者E.デミング氏を招き、統計手法を用いた統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)を学びました。
今でもQCに貢献した企業に対して「デミング賞」という賞の表彰が続いています(私も何年か審査員を務めました)。
使いやすい標準的なツールとして「QC七つ道具」が提案され、幾多の企業が活用するツールになり、工程や製品の改善がどんどん進みました。
一般の製造担当者の間では職場の小集団で改善活動を行う「QCサークル」が爆発的に普及しました。業務終了後でも皆が集まって、自分らの抱える品質問題を議論し、QC七つ道具などを使って解決することが大流行しました。
例えば極めてよく使われる「特性要因図」などは皆でワイワイ議論しながら不良の原因をまとめるのに格好のツールで、統計の知識なども全く要りません。

(特性要因図で「料理がおいしくない」の原因を挙げた例)
会社も日本科学技術連盟もこの活動を積極的に支援し、QCサークルによる改善活動の発表会が地方から全国レベルまで行われました。
文系(事務営業系)の方々も参加し、全社レベルで展開する会社も多数出現しました。製造業が中心ですが、サービス産業にも波及して行きました。
これはいかにも日本独自の運動で、海外からは「仕事が終わってから集まって仕事の話をするなんて信じられない」「企業からの強制ではないのか」など批判の声もありました。
しかし、本人たちは品質が良くなることで
- 不良に対処する手間が省ける
- ムダなコストが省ける
- そうすると効率が上がり
- 仕事も楽になる
- さらに自分たちの作ったモノの評価が上がり
- やがては会社の業績が向上して
- 給与も良くなる
ことがわかっていますので、至って積極的に取り組んでいました。
また、日本では圧倒的に現場では高卒者が多く、データ収集やグラフ作成なども十分可能であったことも見逃せません。勿論会社にとっては有り難いので、残業として手当を出す会社も結構ありました。今は業務時間内に実施してもらうことが多くなっています。
私は日本のQCのアカデミックな部分(特に手法の研究)を切り開いて来た「日本品質管理学会」に参加して長らく役員を務め、日本科学技術連盟でも色々な仕事をしました。
一人の才能に頼りすぎない、科学的根拠に基づいた商品企画法の開発(P7:商品企画七つ道具)
P7(商品企画七つ道具)も同連盟での研究活動から生まれました。
一人の優秀な企画パーソンに頼った商品企画から、スキルを学べてスキルを学んだ従業員であれば誰でも一定品質の商品企画ができる方法として開発したのがP7(商品企画七つ道具)です。
※現在はNeoP7(ネオ ピーナナ:新商品企画七つ道具)として進化しています。
日本品質管理学会でのP7(商品企画七つ道具)の発表では企業の皆様から貴重な意見をいただきました。
P7(商品企画七つ道具)に関して、詳しくは👇をご覧ください。
☆「商品企画システム化への道(1)」
☆「商品企画システム化への道(2)」
NeoP7(新商品企画七つ道具)
品質の根底=統計的な物の見方、多変量解析と実験計画法
このシリーズでは、国家ブランド指数NBIで日本が1位になれたワケを紐解きながら、日本のモノづくりを支える品質に視点をあてた商品企画のお話をしてきました。
次回このつづきから、再現性のある商品企画を行う大事なポイントとなる下記2点についてお伝えしたいと思います。
- 品質の根底=統計的な物の見方
- 多変量解析と実験計画法
次回もお付き合いください。お楽しみに!
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神田範明
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