感性を磨くマーケティング術 「触発される」瞬間から始まるデータ×人の共感分析

公開日:2022年10月13日最新更新日:2025年10月23日堀内香枝

「触発される」瞬間から始まるデータ×人の共感分析

人の心がふと動く瞬間——。
それは、数値では測れない“感性”の領域にあります。
たとえば、誰かのひと言に勇気づけられた時、思いがけない気づきが生まれた時。
その瞬間、私たちは「触発」されています。

マーケティングの世界でも、データや理論だけでは見えない“感性の触発”が、商品開発や顧客理解を大きく前進させることがあります。
数字の裏にある感情を読み解き、データと人の心をつなぐ——。
それが「感性を磨くマーケティング術」です。

この記事は、こんな方におすすめです。

  • マーケティングの基礎を、感性の視点からもう一度学び直したい方
  • 定性データや質的データを活かして、人の“気持ち”を読み取りたい方
  • データ分析と感性を融合させた新しいマーケティングの形に関心のある方

母親からの短いLINEメッセージに触発された娘の気持ち

日常の中で、人は思いがけない「触発」に出会うことがあります。
それは、相手の一言が、心の奥にそっと響いた瞬間です。

ある日のこと。
訪問サービスの仕事をしている娘さんが、早朝から夕方まで7軒を回る予定でした。
しかしその日、お昼前の2件が突然キャンセルになり、ぽっかりと時間が空いてしまいます。
一日のリズムが崩れ、心のどこかに小さな動揺が生まれました。

普段は一日が終わってからしか連絡をしない母親に、娘さんは珍しくLINEを送りました。
おにぎりを食べながら、空いた時間をどう過ごしているかを丁寧に書き連ねた長文メッセージです。
日常の些細な報告に見えて、実はその裏には“戸惑いを整えたい”という心の動きがありました。

   

         

(娘さん)お昼のおにぎり、おいしかった、朝作ってくれてありがとう。
今日は2件、キャンセルが突然あって10時から14時まで時間が空いちゃった。。。。 
12時まで事務所にいて、その後、10分くらい歩いたところにある子ども図書館?みたいな所、その1階にフリーで入れて座れるイスがあったのでそこに来ています。

早朝のサービスを終えて10時頃に一応事務所に戻りました。そうしたら、責任者からいくつか労務や勤怠の手続きの書類を渡されて、それを確認して時間がたった。
キャンセルがあったおかげで、そういう手続き関係のことを済ますことができたから、事務所に戻ってよかったかな。

その後、事務所でおにぎり食べて、それから「キャンセル入ったから次のサービスまで時間が空くので出てきます。時間に戻ります」と責任者に言って出てきた。

すると母親から返ってきたのは、たった一文。

(母)今日はずいぶん余裕だね。

その短い言葉に、娘さんの心がふっと軽くなりました。
「余裕」という言葉が、まるで心の鏡のように、自分の中に“落ち着き”と“肯定”を生み出したのです。
ほんの一言が、感情を正の方向へと転換させた瞬間——これが「触発」です。

マーケティングの世界でも、同じようなことが起こります。
ある言葉、あるビジュアル、あるメッセージが、受け手の心に共鳴し、行動のきっかけになる。
それは、単なる情報伝達ではなく、「感性を介した共感のスイッチ」が押される瞬間です。

娘さんの心を動かした母の言葉のように、人の心を“動かす”メッセージを生み出すこと——
それこそが、感性を磨いたマーケティングの原点なのです。

子どもの言葉に触発される親の行動

「触発」は、年齢や立場を超えて起こります。
それは、相手の純粋な感性に、自分の感情が共鳴した瞬間。
子どもから親へ——そんな方向に感性が伝わることもあります。

ある日、小学校低学年の子どもたちと保護者が一緒に子どもプラザを訪れました。
和やかな雰囲気の中で、お菓子の袋を開けようとしたその時、子どもがすかさず言いました。

「ここはお菓子食べちゃダメ、食べるなら外で食べなきゃダメ!」

親御さんは一瞬、驚いたように子どもを見つめ、
「そうなの?」と笑顔で答え、皆で外へ出ていきました。

この光景を見ていると、ふと気づかされます。
“注意される側”が“注意する側”になるという、立場の逆転。
そこには、子どもの素直な感性が、親の行動を変えたという「触発」の瞬間がありました。

マーケティングの現場でも、似た現象が見られます。
消費者の声や生活者の視点——つまり、現場の“素直な感性”が、企業の戦略や方向性を変えるきっかけになることがあります。
データ分析や理論だけでは見えない、「感性の声」に触発される組織が、真の共感型ブランドを育てていくのです。

感性マーケティングとは、「伝える」ことではなく、「共鳴する」ことから始まります。
この小さな親子のやりとりに、“共感が行動を変える”という感性の力が凝縮されているのです。

人と人の間に生まれる触発は、組織の中でも同じように起きるものです。

仕事のプロジェクトの中で「触発」されてポジティブな方向へ展開した3つの例

人と人との間で起こる「触発」は、職場やプロジェクトの中でも確かに存在します。
それは、数字や報告では表せない“感情の共鳴”が、チーム全体の行動を変える瞬間です。
ここでは、実際の現場で起きた「感性の触発」が、組織や人の成長を後押しした3つの例をご紹介します。

「触発」される感性1 上司の働く姿勢に「触発」を受けた部下

新規事業の立ち上げを支援していたある食品メーカーでのこと。
上司が描いた新規事業の仮説を、部下の方が分析・検証する中で、「自分も新しいアイデアを形にしたい」という強い意欲が芽生えました。

上司の姿勢や言葉、そこに込められた“熱量”が、部下の中に新しい情熱を生み出したのです。
この“感情の触発”が連鎖し、もう一つの新規事業仮説が生まれました。

マーケティングでは、こうした「感情の共鳴が創造を生む」構造がよく見られます。
組織の中で感性が伝わると、戦略よりも先に“やりたい”というエネルギーが動き出すのです。

「触発」される感性2 事業部間で良い「触発」が生まれた例

ある企業が東京ビッグサイトへの出展を控えていました。
2つの事業部が合同でブースを作ることになりましたが、進捗スピードや温度感に差があり、当初は足並みが揃いませんでした。

そこで、全てのやり取りをメールで共有し、全員が同時に進捗を見られるようにしました。
すると、A事業部のアウトプットを見たB事業部が「自分たちも負けられない」と刺激を受け、次第に活気が生まれました。

視覚的に「努力」が見える化されたことで、互いの信頼や思いやりが自然に芽生えたのです。
情報共有が感性を刺激し、チームの共鳴を生んだ好例です。

「触発」される感性3 社員教育や社内活性化につながる「触発」 

大量データの分析に苦手意識を持っていた部署がありました。
当初は外部委託を検討していましたが、私たちが「一緒に見ていきましょう」と提案すると、「社員教育にもなるし、将来のためにも良い」と意識が変わりました。

外部に任せる発想から、共に学ぶ姿勢へ。
その変化の裏には、「できるかもしれない」というポジティブな触発がありました。

感性マーケティングの観点では、これは「関与による共感形成(Empathic Engagement)」と呼ばれる現象です。主体的な関与を通じて、人は“他者の想い”を感じ取り、行動を変えていきます。

感性の触発は、指示やルールでは生まれません。
人の姿勢・声・想いが、他者の心に響く時にだけ起こる現象です。
それが組織の中で波紋のように広がると、チームの創造性やモチベーションを底上げする力になります。

マーケティングも同じです。
数字の裏にある「人の想い」を感じ取る感性を磨くことが、行動を生み、価値を共創する第一歩なのです。

感性の触発が、組織を動かす

ここまで、日常や職場の中で起きた「触発」の瞬間を見てきました。
人の言葉に心が動く。
その心の動きが行動を変える。
そして行動が、新しい関係や成果を生み出していく。

この連鎖の根底にあるのが、「感性」という人間の力です。

マーケティングの世界では、データがあふれています。
けれども、データは“触発の結果”を映し出す鏡にすぎません。
数字の奥には、必ず「人の想い」や「心の揺れ」があります。
その微細な変化を感じ取る感性を持てるかどうかが、マーケターの力量を大きく分けるのです。

データを見て、ふと「なぜこうなっているのだろう」と思う。
一つの傾向に「なるほど」と心が動く。
その瞬間こそ、“データに触発された”感性の発動です。これはよい分析を行った時に生じやすい「触発」です。

マーケティングの基礎フレームワークに適切な情報をインプットすると、思考が刺激され有効なアウトプットを得ることができます。多変量解析手法を活用してデータ間の関係性を読みとったら、真のニーズを発見し商品開発ができた、ということもありました。
分析とは単なる数値操作ではなく、“人の感情を読み解く”ための共感プロセスなのです。

感性を磨くことは、感じ取る力を鍛えること。
相手の言葉の裏にある温度や、データの背景にある人の物語を想像すること。
そうして初めて、数字と心が結びつき、“共感を生むマーケティング”が生まれます。

3C分析や5F分析といったフレームワークも、ただの分析手法ではなく「感性を刺激する思考の器」として使うと、そこから新しい発見が得られます。

マーケティングを遂行する中で、マーケティングデータは不可欠です。良い「触発」が起きるような分析にはマーケティングの基礎スキルが欠かせません。
弊会(日本マーケティング・リテラシー協会・JMLA)では、マーケティングの基礎理論を使いこなせるようになることを目指す『JMLAベーシックパスポート』講座を用意しています。基礎マーケティングを復習したいと思っている方は、ぜひご覧になってみてください。

JMLAベーシックパスポート

また、人の気持ちつかむ感性マーケティング講座『JMLAマーケティング解析士プロフェッショナル 感性』に関しては下記をご覧ください。
感性データを定量化し分析し戦略立案を体系立てて行えるようになるスキルを身に着ける内容です。質的データや定性データを、定量データと同様に分析できることを学びます。ご興味をお持ちの方は是非ご覧になってみてください。

感性マーケティングの実用資格講座

「JMLAマーケティング解析士プロフェッショナル 感性」は、売上を伸ばすためのお客様の声を見つけるスキルを習得する資格講座です。

参考:「感性とは、感性マーケティングとは」

 

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女性の感性を活かした調査設計や市場動向の分析により、お客さまの深層心理「感性」の解明を得意とします。コンサルティングファームで食品メーカー、外食産業、エステティック産業、通販企業、冠婚葬祭業、工作機械メーカーなど幅広い業種のマーケティング・コンサルティング業務を経験しました。これまで培った経験を元に、一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)設立に参画し、感性マーケティング『マーケティング解析士』講座カリキュラム策定に携わりました。現在は、『マーケティング解析士』講座の講師活動を行っています。同時に、企業様のマーケティング課題解決のサポート活動を継続しています。