売れる商品は「利用シーン」を増やしている―市場を拡大する商品企画・マーケティングの発想法
「市場が成熟している」「新規顧客が増えない」と悩む企業は少なくありません。
しかし、売上を伸ばす方法は新商品を開発することだけではありません。
今ある商品でも、「どんな場面で使われるか」という利用シーン・使用シーンを広げることで、新たな需要を生み出せる可能性があります。商品企画やマーケティングでは、「誰に売るか」と同じくらい「いつ、どこで、何のために使われるか」を考えることが重要です。
今回は、多くのヒット商品に共通する「シーンの拡大」をテーマに考えてみます。
目次
利用される場面が増えるほど市場が大きくなる
私たちは普段、商品を「モノ」としてではなく、「ある場面」で利用しています。
例えば飲み物は、朝起きたとき、仕事中、運動後、食事中など、それぞれ異なるシーンで選ばれます。
掃除用品は毎日のちょっとした掃除や消臭だけでなく、季節の部屋の模様替えのための掃除、年末の大掃除などにも使われます。
このように、一つの商品でも利用される場面が増えるほど、購入する理由や購入頻度は増え、市場そのものが大きくなります。
実際、多くのヒット商品は性能を大きく変えたわけではなく、「新しい使い方」や「新しい利用場面」を提案することで市場を拡大してきました。「休日だけ使うもの」を「毎日使うもの」へ、「特別な日に使うもの」を「日常で使うもの」へ、「一部の人の商品」を「多くの人の商品」へ変えていく発想です。
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マーケティングでは、「使用シーン(利用シーン)の拡大」は、市場を拡大するための代表的な戦略の一つとされています。
では実際に、どのような商品が利用シーンを広げることで需要を拡大してきたのでしょうか。身近な事例を見ていきましょう。
汗拭きシート(ボディシート)
近年、日本の夏は大きく変化しています。異常気象などの影響で30℃以上の真夏日や35℃以上の猛暑日が増加し、2026年4月17日、気象庁は最高気温40℃以上の日の名称を正式に「酷暑日(こくしょび)」と決定しました。
2025年6月からは企業における職場での熱中症対策が義務化されるなど、暑さへの備えは個人だけでなく企業にとっても重要なテーマとなりました。
こうした社会環境の変化を背景に、汗拭きシート(ボディシート)の市場も拡大を続けています。
現在では、超ロングサイズの『エリエール ドデカシート 超ロング』(大王製紙株式会社)、湿度や暑さによる不快感を軽減する『ビオレZero』(花王株式会社)、香りや保湿性を高めた『まるで、拭く香水。』(株式会社ノルコーポレーション)など、利用シーンに合わせた商品が次々と登場しています。
かつて汗拭きシートは、「夏に汗をかいた後のベタつきやニオイを拭き取る商品」という位置づけが中心でした。
しかし現在では、
- 営業の外回りや満員電車の後のリフレッシュ
- スポーツ後のクールダウン
- イベントやフェス、キャンプなどのアウトドア
- 屋外作業時の熱中症対策
- 入浴できないときの代替ケア
- メイク崩れを防ぐビューティーケア
- さらには冬場の暖房による汗やベタつきへの対策
など、利用シーンは大きく広がっています。

マーケティングの視点で見ると、汗拭きシートは「汗を拭く商品」から、「暑さ・ニオイ・ベタつき・身だしなみ・熱中症・美容」といった生活者のさまざまな困りごとを解決する商品へと進化してきました。
つまり、「汗」という現象ではなく、「汗によって生じる困りごと」に着目したことで、新たな利用シーンが次々と生まれたのです。
ウェットティッシュ
次に「ウェットティッシュ」です。前項の「汗拭きシート」と似ているように感じる「ウェットティッシュ」ですが、目的や成分が異なります。
「ウェットティッシュ」の歴史は、1970年代に赤ちゃんのおしり拭きとして誕生し、その後、飲食店のおしぼりや家庭での手拭きなど、日常生活の必需品へと利用シーンを広げていきました。
「ウェットティッシュ」使用シーンの代表例
- 食事前後の手拭き
- テーブルやキッチンの掃除
- スマートフォンやキーボードなどのガジェット(小型電子機器などの)清掃
- 自動車の車内汚れ落とし
- キャンプやバーベキューなどのアウトドア時の汚れ落とし
- 旅行や外出先での衛生対策
- ペット用品の掃除
- メイク落とし
- 防災バッグへの備蓄
など、多様なシーンで利用されています。
特に新型コロナウイルス感染症の流行以降は、「除菌」という新たな価値が加わり、持ち歩く習慣が定着したことも市場拡大を後押ししました。

ウェットティッシュの成功は、「汚れを拭く」という基本機能を変えることなく、生活者の行動や暮らしの変化に合わせて利用シーンを広げ続けてきた点にあります。家庭、外出先、アウトドア、防災、美容、ペットケアへと、「どこで」「何を」「いつ拭くか」を次々と提案したことで、新たな購入理由を生み出し、市場を拡大してきました。
炭酸水
「炭酸水」は、もともと「健康飲料」として日本に登場しました。
1904年(明治37年)、現在のウィルキンソンの前身が「胃腸を仁王の如く強くする」というコンセプトで、薬効水「仁王水(NIWO)」を発売したのが始まりです。
その後は、ウイスキーのハイボールや焼酎のサワー・酎ハイなどの「割り材」として長く親しまれ、「お酒をおいしく飲むための飲料」という位置づけが定着しました。
しかし近年、炭酸水は「そのまま飲む飲料」として新たな市場を築いています。仕事中に気分をリフレッシュしたいとき、甘い飲み物の代わりに飲む健康志向の飲料、満腹感を得て過食を抑えるダイエットサポート、食事の味を邪魔しない「食事とのペアリング」、運動後の爽快感、サウナや入浴後の水分補給など、利用シーンは大きく広がりました。
さらに、自宅で炭酸水をつくる炭酸水メーカーの普及により、日常的に炭酸水を飲む習慣も広がっています。
こうした利用シーンの拡大を背景に、無糖炭酸飲料市場は成長を続けています。株式会社富士経済の予測では、2026年の国内市場は1,480億円と、2024年比13.5%増が見込まれています。また、株式会社マーケットリサーチセンターの発表では、「炭酸水」市場は2026年から2031年にかけて年平均5.9%を超える成長を予測しており、健康志向や「甘くない飲料」へのニーズが市場を後押ししています。

かつては「お酒を飲む人のための商品」だった炭酸水が、「仕事中」「食事中」「運動後」「ダイエット中」など、生活者の日常に寄り添う飲料へと進化したことで、新しい需要を生み出しました。商品の中身を大きく変えなくても、利用シーンを広げることで市場そのものを拡大できることを示す、マーケティングの好例といえるでしょう。
重曹
重曹と聞くと、「祖母や母がお菓子作りで使っていた」という記憶をお持ちの方も多いのではないでしょうか。かつて一般家庭では、パンや蒸しパン、お菓子作りの「ふくらし粉」として利用されることが最も身近な存在でした。
また、重曹は胃薬などの医薬品原料としても古くから使われてきた歴史があります。
ところが現在、ドラッグストアへ行くと重曹は食品売場ではなく、清掃用品売場に並んでいます。
利用シーンは大きく広がり、キッチンの油汚れ落とし、シンクやコンロの掃除、冷蔵庫や靴箱の消臭、洗濯時の汚れ・臭い対策、茶渋や水筒の洗浄、ペット用品の掃除など、「家中で使えるナチュラルクリーナー」として定着しました。
さらに、入浴剤としてお風呂に入れたり、歯磨きや美容用途に活用したりする人も増えています。
近年では、防災備蓄品として備える家庭も見られるようになりました。
しかし、重曹は成分そのものを大きく変えたわけではありません。

「料理に使うもの」から、「掃除」「消臭」「洗濯」「美容」「ペットケア」「防災」へと利用シーンを次々に広げることで、新たな需要を創出しています。利用シーンが増えれば、購入する理由も購入頻度も増えます。
なお、一つ注意したい点があります。掃除用として販売されている重曹と食用重曹は主成分こそ同じ炭酸水素ナトリウムですが、製造時の品質管理や安全基準が異なります。掃除用重曹を料理やお菓子作りに使用することは避け、用途に応じた製品を正しく使い分けることが大切です。
電動ベッド
電動ベッドは長い間、「医療・介護用品」という位置づけでした。
病院や介護施設、在宅介護の現場で、起き上がりを補助したり、床ずれを予防したり、介護者の負担を軽減したりすることが主な利用シーンでした。
そのため、「高齢者や介護が必要な人のためのベッド」というイメージを持つ人が多かったのではないでしょうか。
しかし近年、電動ベッドは「介護用品」から「快適な暮らしを実現する家具」へと利用シーンを広げています。
背もたれを起こしてテレビや映画を楽しむ、読書やスマートフォンを操作する、ノートパソコンで仕事をする、脚を上げてむくみを和らげる、リラックスしてくつろぐ、いびきを軽減する姿勢で眠るなど、健康で活動的な人の日常生活にも取り入れられるようになりました。
在宅勤務の定着や健康志向の高まりを背景に、「一日の多くの時間を過ごす生活空間」としてベッドを見直す人が増え、若い世代にも関心が広がっています。
ベッド専門店「GUSUKA」では電動ベッドの売上が前年比約4倍に伸びたという(2025年)事例も公開しており、一般家庭への普及が堅調な市場を支えていることがうかがえます。

マーケティングの視点で見ると、電動ベッドは「介護用」という従来用途を否定したのではなく、「快適な睡眠」「リラックス」「健康維持」「在宅時間を豊かにする」といった新しい利用シーンを提案したことが成功のポイントです。商品そのものの機能を大きく変えなくても、「誰が」「どんな場面で使うか」を広げることで、新しい顧客層を獲得し、市場そのものを拡大できることを示す好例といえるでしょう。
ポータブル電源
「ポータブル電源」は当初、キャンプや車中泊、釣りなどのアウトドア用品として普及しました。
その後、日本では自然災害の増加と防災意識の高まりを背景に、停電時の非常用電源として需要が拡大しています。
さらに近年は、在宅勤務やDIY、屋外イベント、家庭でのバックアップ電源など、日常生活でも活用する提案が増えており、『アウトドア用品』から『防災用品』、そして『日常生活を支える電源』へと利用シーンが広がっています。

新しい利用シーンの見つけ方 「商品」ではなく「困りごと」に目を向ける
では、自社の商品の売上をもっと伸ばしたいと考えるとき、新しい利用シーンをどのように見つければよいのでしょうか。
そのヒントは、「商品」ではなく「困りごと」に目を向けることです。
例えば、「小腹がすいた人向けの食品」を開発している会社が、さらに売上を伸ばしたいと考えたとします。
このとき、「小腹を満たす食品」という発想だけでは、新しいアイデアは生まれにくいでしょう。
しかし、「小腹がすいた状態で、人は何に困っているのだろう?」と考えると視野が一気に広がります。
例えば、
- 「会議中で音が出るもの、匂いが出るものは食べられない」
- 「エネルギー不足で頭がぼ~っとして勉強が手につかなくなる」
- 「空腹感でイライラして部下にキツイ言葉をかけてしまう」
- 「食べ物のことばかり浮かんで仕事に集中できなくなる」
- 「立っていると気持ち悪くなる」
- 「プレゼン中に眠くなる」
- 「外回り中に歩く力も抜ける」
- 「糖質は控えたい」
- 「手を汚したくない」
- 「口臭が気になる」
- 「子どもを見ながら短時間で食べたい」
- 「寝る前に食べてはいけない気がする」
など、同じ”小腹がすいた”という状態でも、置かれたシーンによって困りごとはまったく異なります。
つまり、新しい利用シーンとは、生活者の新しい困りごとを発見することでもあります。「どんな場面で困っているのか」を丁寧に観察することで、これまで気づかなかった需要や、新しい商品企画のヒントが見えてくるのです。
組織的に効率的に新しい利用シーンを発想する手法
また、「小腹がすいた人向けの食品」を開発している会社が、さらに売上を伸ばしたいと考える例のつづきですが、「小腹がすいた状態になると困るシーン」を組織的にアイデア創出する方法として、「焦点発想法」(※)などのアイデア発想法を用いるやり方も有効的です。
(※)焦点発想法とは
商品企画のためのNeo P7法(ネオ ピーナナ、新・商品企画七つ道具)の中の一手法。
「焦点発想法」の特長は、対象の商品とは【全く別の自分の好きなことに焦点をあてる】ところからスタートでき、そこから組織的にアイデアを創出できることです。
では「焦点発想法」を応用して、「小腹を満たす食品」を摂食する「新しいシーン」の創出を行ってみましょう。
【全く別の自分の好きなことに焦点をあてる】ところからスタートします。
筆者は「革のカバン」が好きなので、「革のカバン」に焦点を当てます。
「革のカバン」に焦点をあて、下表左の「対象の要素」をまず列挙します。
左の「対象の要素」を発想の刺激材料とし、→「中間アイデア」を経由し→「小腹がすくシーン」を発想します。
焦点を当てる対象:革のカバン
| ◉対象の要素→ | ◉中間アイデア→ | ◉小腹がすくシーン |
| 持ち手 | ||
| 持ち手と袋部部をつなぐ金具 | ||
| 肩掛け革紐のベルト穴 | 調節できる | 人や時間の調節事が増えると小腹がすく |
| ネームタグ | ||
| ネームタグ ボールチェーン | 小さなボールが連なっている | 人の話を長く聴くと小腹がすく |
| ファスナー | ||
| カバン内の仕切り | ||
| 内ポケット5つ | 小物を入れ分けられる | 鉢の植え替えや庭仕事をしていると小腹がすく |
表の左列は、「革のカバン」に焦点をあてたときの「要素」8つを挙げています。
挙げた「要素」のうち、「肩掛け革紐のベルト穴」と「ネームタグボールチェーン」「内ポケット5つ」
の3要素について、「中間アイデア」➡「小腹がすくシーン」へ思考を展開した例を記載しています。
「焦点発想法」を使うメリットは、「対象の要素」が思考の「刺激材料」となることです。
「小腹を満たす食品」のことばかり考えていると発想は広がりませんが、自分の好きなことに焦点をあて、そこから刺激をもらい、思考を広げる組織的なやり方は、アイデア創出に効果的です。
表の右列、上から3段目「人や時間の調整事が増えると小腹がすく」については
調整事はプレッシャーやストレスを感じる、という困り事が起こることもあります。
以下のような価値が「小腹を満たす食品」に含まれていると顧客から喜ばれるのではないかという「仮説」が生まれます。
- 疲労感を和らげるもの
- 胃腸の調子を整えるもの など
表の右列、上から5段目「人の話を長く聴くと小腹がすく」については
聴く行為は相手の感情や内容を処理するため、体力を消費する、という困り事が生じることもあります。
以下のような価値が「小腹を満たす食品」に含まれていると顧客から喜ばれるのではないかという「仮説」が生まれます。
- 一口サイズのもの
- 音が出ないもの
- 素早く脳にブドウ糖を補給できるもの など
表の右列、一番下の段「鉢の植え替えや庭仕事をしていると小腹がすく」については
庭仕事や畑仕事は体力を消費します。
以下のような価値が「小腹を満たす食品」に含まれていると顧客から喜ばれるのではないかという「仮説」が生まれます。
- 血糖値の急激な上昇を防ぐもの
- 栄養補給ができるもの など
このように、「小腹を満たす食品」を利用シーンに分解すると、より丁寧に、適切に、提案や訴求の際のコンテンツ要素を見直すことができます。
また、商品改良や新商品企画の気づきも得られます。
ただし、アイデア創出した「利用シーン」を直ちに商品開発へ進めるのではなく、創出したアイデアを検証することを忘れてはなりません。
アイデア創出とアイデア検証は一体で進めることが肝要です。
そうでないと、実際にどれくらいのボリュームのニーズに応える商品になるか判らないからです。
判らないままつくってしまうと(または開発してしまうと)失敗します。
まとめ
「市場が成熟している」「新規顧客が増えない」と悩む企業は少なくありません。
しかし、売上を伸ばす方法は新商品を開発することだけではありません。
今ある商品でも、「どんな場面で使われるか」という利用シーン・使用シーンを広げることで、新たな需要を生み出せる可能性があります。
利用シーン・使用シーンを広げる際、「商品」ではなく「困りごと」に目を向けると「シーン」を広げるアイデアが創出しやすくなります。また、「焦点発想法」などのアイデア発想法を活用し組織的に「シーン」アイデアを創出することも有効的です。
その先の商品企画を行う場合も、アイデア発想法はとても効率的に優良アイデアを創出できます。
尚、アイデアは創出しただけでは売れるか売れないかボリュームがわかりません。
そこで、アイデア創出とアイデア検証は一体で取り組むことが大切です。
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2. 消費者や顧客のニーズを深く知る
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